PR

【強いて読まなくてもいい】マネーロンダリング 書評・レビュー

マネーロンダリング C

橘玲さんのデビュー作。
脱税に関する情報が満載の一冊です。
最近はお金や経済の解説本を出版していますが、本作は小説です。
本作以外にも、これまでに小説を5作発表しています。

ストーリーはフィクションですが、作中で語られる非合法な脱税方法については非常に詳細で、当時は実際に使えたものが多数書かれています。
20年以上前の本ということもあり、現在では使えないものばかりですが、税制度の歪みを突く豊富な知識と慧眼には、さすが橘玲さんだと感じさせられます。

巻末の解説を、国民民主党代表の玉木雄一郎さんが書いている点も見どころです。
(本の出版時、玉木さんは財務省に所属し、大阪国税局に出向していました。)

脱税をテーマにした本であるため、資産形成の知識を求めている人は、無理に読む必要はありません。
しかし、橘玲さんのファンであれば、彼の原点として押さえておきたい一冊です。

この記事を書いている人
Shachiblo.com

著者プロフィール

・書籍名:マネーロンダリング
・著者:橘 玲
・出版月:2003/4/15
・出版社:幻冬舎

1959年生まれ。早稲田大学卒業。編集者を経て、2002年、経済小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。小説、評論、投資術など幅広い分野で執筆。

本の目次

第一章 夏、香港

第二章 秋、東京


第三章 ハッピークリスマス

解説 玉木雄一郎 

総合評価

あらすじ

主人公は香港に住む日本人、工藤秋生。
彼は香港で、日本人向けの脱税コンサルタントをしています。
香港は相続税や配当課税がなく、法人税も16.5%と日本に比べて低い。
また、香港では、香港国外で得た所得に対して課税されません。
このタックスヘイブンとしての香港の特徴を生かし、秋生は顧客に脱税スキームを案内したり、香港の銀行口座開設をサポートしたりしています。(もちろん、アングラな仕事です。)

そんな中、絶世の美女・麗子が客として訪ねてきます。
彼女のリクエストは「税金を払わずに5億円を日本から国外へ出金する方法を知りたい」というもの。
秋生は麗子に脱税の方法を教え、それを麗子が実行した後に報酬を受け取る予定でした。
ところが、麗子は消えてしまいます。
5億円ではなく、50億円の大金とともに――。

麗子はどこへ消えたのか?
なぜこんなことをしたのか?
そして、どうやって50億円を持ち逃げしたのか?
秋生は麗子を追いかけることになります。

経済本としての評価

本書は、脱税方法の指南書ともいえる内容で、脱税を考えている人にとっては有益な情報が書かれています。
(もちろん、そんな人がいてほしくはありませんが。)

ただし、20年以上前の本ということもあり、現在は使えないものがほとんどです。

例えば、当時は「海外の保険会社と生命保険を契約すると、相続人が受け取る保険金は相続税の対象にならず、一時所得扱いになる」というルールがありました。
一時所得の場合、総収入からそれを得るために支出した金額を引いた利益の半分が課税対象となります。仮に保険金が10億円なら、課税対象は5億円になります。
一方で、相続税には非課税枠(本の発行時は5000万円+(500万円×法定相続人))があります。
仮に妻と子供2人が相続する場合、非課税枠は6500万円。通常の相続では9億3500万円が課税対象となります。しかし、海外の生命保険を活用することで、税金を約半分に抑えられる仕組みでした。

しかし、2007年の法改正により、海外生命保険の取り扱いは国内生命保険と同じになり、この脱税手法は封じられました。

また、別の例として「海外の契約型ファンドは無税」と書かれていますが、こちらも2016年の税制改正により、株式などと同様に課税されることとなりました。

このように、本書に書かれている脱税・節税方法は、現在ではほとんど使えません。
しかし、それでも本書の価値がなくなるわけではありません。
税のシステムは人間が作ったものであり、海外が絡めば必ず綻びが生じます。
それを(法の範囲内で)突くことができれば、蓄財を有利に進めることができます。
常にアンテナを高く張り、情報を得ることが重要です。
(特に、橘玲さんの情報発信には今後も期待したいです。)

小説としての評価

ストーリーに関しては、クライマックスが駆け足で終わり、やや尻すぼみの印象でした。
謎の女・麗子の正体や目的が明かされるラストシーンは、本来であれば一番の盛り上がりどころのはず。
しかし、真犯人の動機がいまいちピンとこず、深掘り不足に感じました。

また、舞台となる香港の雰囲気があまり伝わってこない点も残念でした。
見知らぬ地名や香港ドルでの金額表記が多く、理解の妨げになりました。

とはいえ、キャラクターには魅力的な人物も登場します。
ヤクザの黒木は、なぜか憎めない存在ですし、その部下・ゴローはとてもチャーミングです。

何より、主人公・秋生の人物像がいい。(これは玉木さんも解説で述べています。)
「平凡な中流家庭で育ち、中学・高校・大学をとりあえず優等生で過ごし」、「金があってもやりたいことがあるわけではなく」、「そもそも根源的な欲望のいくつかが欠落し」、「ただ、貧乏のまま路頭に迷うのが怖かった」――

このプロフィールには共感できる人は多いのではないでしょうか。

総評

資産形成の本としては実用性が低く、小説としても傑出した作品とは言えません。
資産形成に役立つ情報を求めている人は、無理に読む必要はないでしょう。
一方で、「橘玲さんの他の本が面白くて、デビュー作を読んでみたい」という人にはおすすめです。

個別評価

新規性 ー 新しい情報があるか

今までに見たことのない情報がいくつかありますが、役に立つものは少ないです。
脱税の方法が詳細に書かれていますが、現在は穴を塞がれているものばかりです。
そもそも脱税はNG。

汎用性 ー 多くの人の役に立つか

過去に使えた脱税の方法に興味がある人にとっては、多少役に立つかもしれません。

わかりやすさ ー 理解しやすい工夫があるか

脱税の方法解説は難しく、一度読んだだけでは理解しづらいです。
金融に関する前提知識もある程度必要で、文庫版は556ページとボリュームも多めです。

実用性 ー 本を読んですぐに役に立つか

脱税の方法自体は役に立ちませんが、「お金のシステムの歪みを突くことで利益を得る」という考え方は、長期的に見て有益かもしれません。

印象に残ったポイント

合法的な脱税方法

オフショア(国内金融市場から隔離され、非居住者向けに税制などの優遇措置を認めた国際市場)や、香港などの非課税、軽課税国に法人を作って利益移転させれば脱税ができるが、タックスヘイブン対策税制が障壁になる。

国内企業が海外子会社を実質支配しているなら、子会社と連結して課税されてしまう。
これを回避するには、株式の半分以上を日本の非居住者に持たせるしかない。
非居住者に協力してもらうことで脱税できるのだ。
ただし、その非居住者に会社を乗っ取られたり、脱税の証拠を握られて脅されたりというリスクがある。

タックスヘイブンが無くならない理由

国家主権という幻想がある限り、タックスヘイブンは無くならない。
国家を名乗る以上、他の国は独立国の主権の行使に何の強制力も持てない。
タックスヘイブン国のほとんどは観光以外に資源がなく、経済的に自立するのが難しい。
そんなタックスヘイブン国は国民に職を提供し、幸福を増大させるために、国際協調を無視して有害税制を導入しているが、主権がある以上、他の国は止めることはできない。

まとめ

本書で紹介されている脱税の方法は、出版当時は実際に使えたものだったはずです。
正直なところ、「こんな本を出して大丈夫なのか」と思いました。

現在、国税局はAIを活用して脱税のチェックを行っており、今後は脱税の難易度もさらに上がるのではないかと思います。(もっとも、脱税する側もAIを活用するため、いたちごっこになるかもしれませんが。)

もちろん、脱税は許されませんが、節税は資産形成において非常に重要です。
橘玲さんの他の本には、脱税だけでなく節税に関する情報も豊富に掲載されているので、ぜひ読んでみてください。

シャチ
シャチ

最後まで読んでいただきありがとうございました!

ブログランキング・にほんブログ村へ

にほんブログ村
応援クリックいただけると励みになります!

タイトルとURLをコピーしました